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2023,12,8 ~成道会法要~

12月8日(金)、成道会法要を行いました。

成道会は、お釈迦様が悟りを開かれた日です。
お釈迦様は、菩提樹の下で8日間、飲まず食わずで
坐禅を組み続け、その後に悟りを開きました。

平日にもかかわらず、20名以上の方にご参列いただきました。
皆様、ありがとうございました。お疲れ様でした。


また、8日間の坐禅でやせ細ったお釈迦様に
「スジャータが乳粥を供養した」という故事に倣い、
法要の後は、皆さんで豆乳粥をいただきました。



 

目次

成道会法話 【降伏と抵抗】

成道会の法要お疲れさまでした。
先月12日に可睡斎の参拝旅行を行いました。可睡斎は静岡県にある御祈祷と精進料理が有名なお寺です。
可睡斎での御祈祷の際、中央に座っていた導師が何か大きな声で叫んでいたのが分かったでしょうか。
実は、御祈祷の際、導師が叫んでいた言葉は「降伏一切大魔最勝成就」という言葉です。
『一切、全ての怒り悩み不安焦りという心の苦しみを取り除く最も勝れている方法は降伏することである。皆で降伏しよう。』という意味です。

というわけ今日のお話は「降伏」についてです。私の横に降伏と書かれています。仏教ではにごって読み「降伏」と読みます。
我々は様々な痛みを感じながら生きています。殴られる、暴言を吐かれる、病気で関節が痛い、筋肉痛であるなどの物質的な痛みや、あの人から嫌われているのではないか、会社で正しい評価を受けられていないのではないか、ミスをして怒られたらどうしようなどの不安や焦りなどの心の痛み。この痛みに対して抵抗することで苦しみを拗らせていきます。
例えば、私は登山が趣味です。山に登れば誰でも足や背中に痛みを伴います。ときには虫刺されや枝で肌を切ってしまう事も。しかし、登山をしていながら心が苦しいとまでは思いません。なぜなら登山をする人は皆、「この困難な登山を選んだのは自分だ」との認識があるからです。一方誰かに強制させられた登山でしたら話は変わります、「なぜ自分がこんなつらい目に」と現状否定の思考が頭を巡り心が苦しくなってきます。
またより、身近な例で見てみると予防接種の会場での光景です。皆さんも新型コロナウイルスのワクチンやインフルエンザ予防接種をされた事があると思います。大人が注射をさほど苦にしないのは、私たちがワクチンの重要性を認め、注射の痛みに降伏しているからです。「この痛みは受け入れるしかない」と認識することで抵抗を止めて苦しみが生れません。ところが、ワクチンの価値を理解していない子供にとっては注射は理不尽な痛みでしかありません。すると注射の痛みや注射をすること自体に抵抗します。その結果注射への痛みはより一層深まってくるのです。
受け入れられない思い通りにいかない現実に我々は抵抗し心が苦しみを受けていってしまうのです。


かつて、「足なし禅師」と呼ばれていた曹洞宗の僧侶が相模原にいました。
名前は小沢道雄。道雄さんは大正九年生まれ、この正泉寺の先々代住職と同い年位です。二十歳で戦争へ招集され、満州へ行きます。昭和二十年、道雄さんが二十五歳の頃、日本敗戦。シベリアに抑留されて強制労働が始まりました。シベリアでの生活は過酷であり、夏服のまま氷点下40度の極寒の中、一日に支給される食事はパン一個。シベリアに抑留された仲間たちは3日間で大勢が亡くなったそうです。道雄さんは死こそ免れたものの両足が凍傷に侵されました。ひざから下を切断しないと助からない。そう医師に告げられ手術をすることになりました。手術を担当した医師は内科医であり外科手術は初めて、麻酔薬も無かったと言います。想像を絶する激痛が道雄さんを襲います。歯がぎりぎりと噛みあい、全身がギシッと軋んで硬直します。すさまじい痛みは1か月も続いたそうです。
その後帰国命令が出ました。歩けない人は担架に担がれシベリアから中国の港まで1500Kmの道のりを徒歩でいく事になりました。しかし、出発して3日目の朝、目を覚ますと周りには誰もいませんでした。満州の荒野に置き去りにされていました。道雄さんは大声で助けを呼びます。「おーい、だれか、だれかいないか、助けてくれ!!」運よく通りかかった地元の人に助けられ奇跡的に帰国を果たします。
帰国すると故郷である相模原の国立病院に送られました。
病院で母親と弟が面会に駆けつけてくれました。道雄さんは「こんな体になって帰ってきました。いっそのこと死のうと思いましたが、帰ってきました。」
そういうと、母親が膝まで包帯で包まれた足を撫で、小さな声で「よう帰ってきたな」と言いました。
道雄さんは母親と弟が帰った後毛布を被り、声を殺して泣いたそうです。それから入院生活の中で気持ちはどうしても死に傾く道雄さん。なんども死のうと考える中で、ふと仏陀の言葉を思い出したそうです。弟子たちよ人間は比べるから辛いのだ、現実に抵抗するから苦しいのだ。弟子たちよ、全ての現実に降伏しなさい。降伏することこそ、最も優れた心を定める方法である。
道雄さんが比べているのは両足がしっかりあって生まれてきた二十七年前、そして両足でしっかり立って生きてきた二十五年間の人生。
道雄さんはこのように降伏しました。私は本日ただいま生まれてきました。二十七年前に生まれてきたことを止めて、今日生まれたことにしよう。両足切断の姿で今日生まれてきたことにしよう。そう、本日たった今、誕生したのだ。足がどんなに痛く、足が無くて動けなくても、痛いまんま足がないまんま生まれてきたのだから何も言うこと無し。本日只今生まれてきました。
道雄さんはそう宣言しそれから僧侶としての生涯を貫きました。
まさに道雄さんは仏陀がしめされた降伏を生涯をもって実践されたのです。
足が無くなった自分に抵抗しない降伏する。2本の足で自由に動くことの出来ない現実に抵抗しない降伏する。

とはいえ、
道雄さんのように、思い通りにいかない現実に降伏せよと言われて、すんなりと降伏できる人はいません。
しかし自分が抵抗していることに気づくことはすぐに出来ます。思い通りにいかない現実、その現実に抵抗し、怒っている自分、自分は無価値だ私は何やってもダメだとネガティブ思考になっている自分、または酒タバコギャンブルと他の刺激で気をそらそうとしている自分、様々な現実への抵抗の反応をします。まずはそれに気づくことから始めてください。仏陀の説かれた「心を定める方法、降伏」への第一歩です。

今日はこの降伏という言葉をお持ち帰りください。

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